容疑者が病気になったら(2)

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犯罪×病気の話をもう一題思い出しました。

前回の繰り返しとなりますが、人が刑罰に処せられる場合は一般的には下記の手続きを辿ります。

今回は3と4の間で病気(しかも命に関わる重症の病気)になった話。

つまり裁判では有罪判決が出たけど、病気のせいで刑務所には行かなかったという話です。

医療者側の経験より

以下は私自身の医療者側からの経験談です。

約20年前のこと。ある女性患者さんから突然病院に電話がかかって来ました。呂律の回らない容量を得ない通話でしたが、どうやら病院に来院したいという内容。

その患者さんはその時点から遡ること7-8年前に私が手術した患者さんです。睡眠薬でラリったりするやや ” 素行の悪い ” 患者さんでした。同居の一人息子氏(少年期)から「母がラリっている」と病院に電話がかかってきたこともありました。(ちなみにご主人は居られません。離婚or死別は不詳)

電話の要領を得なかったのは睡眠薬のせいだったのかも知れません。

その十数分後に救急車で来院されました。そのまま入院させ精査した所、詳細は省きますが癌の全身転移であり末期の状態でした。

治療方針は緩和医療と決まったのですが、その時点でとある弁護士さんから連絡が来ました。

弁護士さんによると、患者さんはこれまで万引きを繰り返していたせいで裁判で有罪になってしまい懲役刑を受ける為、これから刑務所に収監される予定が決まっているそうです。

なぜ最初からずっと拘留されていなかったのかの理由は不明ですが、元の罪が軽くて逃亡の恐れも無いと判断されたからなのでしょう。

私はその時初めて患者さんが盗癖を持っていたことを知りました。ちなみに手術の入院時には病室で他の患者さんの物が無くなったなどといった話はありませんでした。

また例え万引きのような罪でもそれを繰り返していれば最終的には実刑を喰らうこともこの時初めて知りました。(まあよく考えてみれば当たり前の話ですけど)

さて刑務所に入らなければならないとしても、死ぬまであと数週間の末期癌であることには変わりありません。もちろんほぼ寝たきり状態であり懲役に耐えられる体力もありません。

私は弁護士さんと話し合い今後の善後策を検討しました。

この弁護士さんはこれに先立つ万引き裁判で弁護人を務められた方で、若いけど依頼人のことを親身になって考えて下さる方でした。

弁護士さんによると、刑を執行する責任者は検察官だということでして、つまりは執行停止の権限も検察官が持っているとのことです。

即ち検察官に刑の執行停止を嘆願する手順となるとのことでした。

こういう情報も私はこの時初めて知りました。

嘆願書本体は弁護士さんが作成して下さる事になり、私はそれに付随する診断書を作成することで役割を分担しました。

即ち「癌の末期であり、余命が短く、体力の衰弱も激しく、刑に服することが不可能であり、医療刑務所で服役することも重症すぎるため不可能である旨」の診断書を私は書きました。

その後の経過

その後弁護士さんから連絡があり、刑の執行は無事停止されるとのことでした。

20年前のことなのであまりはっきりとは覚えていませんが、本人の前に1回警察官が来て一瞬手錠をかけて、それから ” 刑の執行停止 ” を本人に通告し手錠を外すという ” 儀式 ” があったようです。

私はその儀式には立ち会いませんでしたが、一人息子氏には母親の手錠姿を見せないように、警察の方を含めた関係者の皆様方の配慮があったようです。

患者さんはその後1ヶ月ほどで亡くなられました。

後日譚

後日、一人息子氏が私の所に挨拶に来られました。「母がお世話になりました」とのこと。

一人息子氏に20代前半の青年になっておられました。

外見は金髪鼻ピアス姿でしたが、人当たりの良いしっかりとした青年でした。隣には彼女さんが寄り添っていました。

金髪鼻ピアスの割には、何だか好感が持てる人だったという印象が残っています。

Sさん、良いご子息をお遺しになりましたね。

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