容疑者が病気になったら…

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最近、連続企業爆破事件の容疑者と思われる人物が末期胃癌で亡くなられました。

病気で入院中の2024年1月25日に発覚し、 ” 身柄を確保 ” され同年1月29日に病死されたそうです。

” 身柄を確保 ” とは実際にはどういう状態であったのでしょうか。

亡くなる4日前の瀕死の状態の病人を警察へ連行して行ったとはとても思えません。亡くなった場所も病院だったみたいですし。

もしも警察で亡くなられたら「医療が必要な状態だったのに、必要な医療も受けさせずに死なせた!」などと大騒ぎになります。そうなれば警察側も困ります。

人が刑罰に処せられる場合は、一般的には下記の手続きを辿ります。

今回は、1の時に病気(それも命に関わる重篤な病気)だったらどうなるのか。

容疑者だって、一般人と同じ確率で病気になります。

または患者(=容疑者)はどういう扱いを受けているのかという経験談です。

医療者側の経験から

以下は私自身の医療者側からの経験談です。

数年前のこと、ある内蔵疾患の末期の患者さん(男性)が当院に入院していました。末期といっても悪くなる一歩手前の状態であったので、まだ歩行出来る状態です。

この疾患の特性上、せん妄(一時的な興奮・錯乱状態)が起こることがあり、ある日それが原因で怒って治療を投げ出し、自主的に退院されてしまいました。

そしてその患者さんは退院後も、恐らくせん妄のせいでどこかのお店で暴れて、(恐らく器物損壊などの罪で)警察にお持ち帰りされてしまいました。

この辺り ” 恐らく ” が多いのは、警察からは確かな情報が貰えませんので推測だからです。

そして警察の留置場にてその晩のこと、急に病状が悪化し意識状態が悪くなり、素人目にも命が危ないと分かるヤバい病状になってしまいました。

このままでは留置場で亡くなってしまうのではないか。

もしも留置場で死者が出れたりすれば、「留置中の容疑者に必要な医療を受けさせずに死なせた。」などと大問題になる恐れがあります。そうなれば留置場係の警察官の方の将来の出世にも響くことでしょう。

留置中の容疑者が前日まで当院に入院していたことは何らかの方法で警察側も把握していたらしく、当院に容疑者の病状についての電話がかかってきました。

そして結局、警察側の診察依頼があり容疑者は手錠をつられけたまま当院に連れて来られ、そのまま入院することになりました。入院後も手錠をつけられたままです。

これは警察としては正しい判断・対応だったと思います。

ちなみに当県警察の手錠は目立たないように黒く塗られていますが、長年の使用で地金の銀色が見えてしまっているものが多いです。

因みにこういう曰くつきの患者の主治医には、当院の慣例で院長である私が新たに務めることになっています。

入院後の患者さんは意識レベルが落ちて完全に大人しくなっていますが、手錠をはめられ縄を付けられた状態で、個室の病室内に警察官2名がずっと付き添っています。

もう病気が進行してしまっていて暴れる心配もないので手錠を外してくださいとお願いしましたが、話はそう簡単ではありませんでした。

何でも一度逮捕されたからには、検察官のお許しが無い限りは手錠を外す(=釈放する)訳にはいかないそうです。

24時間体制で付き添う2名の現場警察官も大変です。逃亡しそうにない(しかも死にそうな)重病人の監視の仕事に対し、もちろん口には出しませんがその表情からは困惑されていた様子が見受けられました。

捜査の指揮を取っている警察上司の方にもこの状況は伝わっており、警察としては手錠を外しても良いと考えられているようでしたが、釈放の許可権限を持つ検察官への説明・説得が難航しているとのことでした。

そこで警察上司の方と私が電話で話し合い、まず私が診断書を発行して、その診断書には「患者は病状が重篤であり、意識状態が悪く、ここ数日の間に亡くなる可能性が高い状態である」と記載するので、その診断書をもとに警察側が検察側に釈放交渉する段取りとなりました。

検察側としても一度逮捕した容疑者を釈放するにはやはり相当な理由が必要のようです。

で、その診断書が警察を経由して検察官に届き、検察官の判断でやっととなりました。ここまで来るのに半日くらいの時間がかかりました。

手錠が外され、容疑者の私物の、警察預かりから病院預かりへと引き渡しの儀式も終わり、警察官の方は帰って行かれました。

帰り際に警察官曰く、捜査は中断しただけで終了ではないので、後日再び捜査に来るかも知れないとのこと。

その患者さんはその後一時的に意識を取り戻しましたが暴れることはなく、1週間後くらいに元の病気のため亡くなられました。

まとめ

という感じで、一度逮捕されてしまうと手錠が外れるのになかなか苦労したという話でした。

手錠がかけられていると点滴などの医療行為にも支障があるし、何よりあと数日の命の患者さんの両手に手錠なんて気の毒だし可哀想です。今回は特に、病気のせいで暴れた訳であって故意ではありません。

今回の連続奇病爆破事件の容疑者は、「逮捕」とは報道されていないので、おそらく最初から手錠はかけられてはいなかったのでしょう。

最期の瞬間にはその両手に手錠がかかっていなかったことを願っています。

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